税金コラム

持ち家の減価償却費を算定する場合の取得価額について

前回、自宅の一部をオフィスとして使用する場合で、その自宅が持ち家の場合には、自宅にかかる減価償却費を所得計算上の必要経費とすることができると書きました(なお、自宅が賃貸の場合には自己の資産ではないため減価償却費は生じません。ただしこの場合には、支払家賃の一部を必要経費とすることができます)。

減価償却は、取得価額を耐用年数にわたって費用化していく計算方法です。資産の取得価額は計算の出発点であり重要な計算要素です。税務上は、単純に購入金額そのものだけが取得価額になるわけではありません。
自宅を購入する際には様々な付随費用が掛かりますが、これらについて取得価額に含めるべきかどうかが、税務上は難しい論点の一つとなっています。というのも、取得価額に含めた場合と含めない場合では、各年の所得金額に違いが生じ、所得税額が変わってくるためです。
取得価額に含めた場合にはその後の数年(税務上の法定耐用年数)にわたってゆっくりと経費化されていくのに対し、含めない場合には全額がその年の経費となります。所得税は各年で計算する必要がありますので、どの年の経費となるかは税務上は大きな問題です(全期間トータルで見た場合には収支は同じなのですが、収支を各年にどう配分するかによって所得税額は変わってきます)。

自宅購入時には一般的には以下のような支出が生じます。
 ● 購入代価
 ● 仲介手数料
 ● 印紙代
 ● 登記費用
 ● 火災保険料
 ● 融資手数料
 ● 借入金利子
 ● 不動産取得税
 ● 固定資産税の清算金

以下では、各支出が所得税法の取り扱い上は取得価額とされるのか、即時に必要経費とされるのかを見ていきます。
判断にあたっては法令・通達にあたっていく必要がありますが、必要経費の通則を規定した所得税法37条と減価償却資産の償却方法を規定した所得税法49条(いずれも政令・関連通達を含みます)の両方を確認する必要があります。

購入代価・仲介手数料・印紙税取得価額とします。購入した資産については、購入の代価、購入手数料、その他当該資産の購入のために要した費用は、取得価額とすることが所得税法施行令126条に規定されています。一般に言う仲介手数料は、ここでいう購入手数料に該当するものと思われます。印紙税については条文上の言葉からは明確ではありませんが、後述する通達等でも特に取り上げられているわけではないため、資産の購入のために要した費用として取得価額に含めることとなります。
仲介手数料は百万円単位になることも通常ですので、取り扱いには要注意です。

登記費用必要経費とします。ここでは司法書士等に支払う費用及び登録免許税を合わせて登記費用としています。不動産の所有権保存のため又は抵当権設定のための登記は、トラブルが生じた場合に第三者対抗要件として備えるために行われるものであり、業務上の維持管理上の費用に属するものです。購入時の支出ではあるものの、性格上「資産の購入のために要した費用」には該当しません。所得税基本通達49-3の(3)でも取得価額には算入しない取り扱いとなっています。

火災保険料必要経費とします。火災保険料をどうすべきかについては法令・通達では特段触れられていません。ただ、火災保険は取得後の火災等に備えて数年分を一括的に前払いするものであり、資産の購入のために要した費用ではありません。

借入金利子・融資手数料取得価額とします。所得税法上は資産取得のための借入金の利子及びこれに伴い生じる融資手数料をどう取り扱うかについての明確な規定はありません。ただし国税庁は通達において「不動産所得、事業所得等を生ずべき業務を開始する前に、当該業務の用に供する固定資産を取得するために借り入れた資金の利子のうち、その資金の借入れの日から当該固定資産の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額は、当該固定資産の取得費又は取得価額に算入する」こととしています。この考え方が融資手数料にも適用されています。両費用を取得価額にすることになれば、現金購入した場合との間で固定資産の取得価額が異なることになってしまい、企業会計の考え方からも違和感がある処理方法とも思えますが、所得税ではこの通達に従って処理することが無難です。

不動産取得税必要経費とします。これについても所得税法上は明確な取り決めはありません。ただし国税庁は通達により、必要経費として取り扱うことを明示しています。不動産取得税は不動産取得後に生じるものであり「資産の購入のために要した費用」とまでは言えないこと、及び、もし取得価額としたならば、購入した固定資産が土地の場合には減価償却費が生じないため、土地の使用中は必要経費とならないことになってしまいます。そのことに配慮した取り扱いだとされています。

固定資産税の清算金取得価額とします。固定資産税は1月1日時点の資産の所有者が負担する税金であり、年の途中で売買取引等により所有者が変更された場合であっても、納税義務者は依然として元の所有者のままとなります。つまり納税義務は移転せず、元の所有者が一年分を納税する義務を負うこととなります。よって、不動産売買取引において一般によく見られる固定資産税の清算金は、あくまでも売買価格の一部であると考えます。したがって購入の代価として取得価額とすることになります。

なおこれらについては所得税の法令・通達共に容認措置がみあたらないことから、基本的には選択の余地はないものと考えられます。

また、法人税法上の取り扱いとも異なるため注意が必要です。法人税法は企業会計の考え方を取り入れているため、固定資産の取得に伴う付随費用を取得価額に算入するか損金とするかについて、比較的柔軟に選択の余地を認めているようです。

筆者:長谷川

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